イラストについて

イラストを始めた動機

学生時代に図工で「2」しか取れなかった私が、イラストを描き始めたのは或るきっかけからでした。それは、せっかく写した作品なのに、不意に人が画面の中に飛び込んで来たり、絶景と思って写した滝の中の岩に赤い炭酸飲料の空き缶が引っ掛かっているのを現像後に見つけたりで、何とかそれらの作品を生かす道はないものか・・・と考えたのが動機となりました。

その技法とは、先ず写真の上に細かい方眼を描がき、画用紙には粗い方眼を描いて一枠ごとに製図ペンで拡大した絵柄を丹念に描いてゆきます。木の葉一枚を描くにも葉脈の一本一本まで精緻に描写しなければ気のすまない性分でしたから、若い頃は1ミリ幅に3本の線を描くほど熱中しておりました。

プリントゴッコで着色したイラスト

そうやって描いたイラストは、まだ墨一色の木版画みたいなものですから、今度は着色して年賀状にして出すことを思いつき、昔取った杵柄で“色分解”して多色刷りにすることにしました。色分解と言っても、元々が単色のペン画ですから何処を何色にしてゆくかを考えながら、それぞれの色が付く部分の絵柄別に描き分けるので色の数だけ版が要ります。

印刷には「プリントゴッコ」を使うので、複雑な絵柄の時は13色・版は5~6枚も作って一回で2~3色づつ位置が狂わないように重ね刷りしてゆきます。例年だと800枚ほど印刷するため3日3晩ぶっ通しの作業となり、何度も何度も繰り返してプリントゴッコをバタン、バタンと上下させたものでした。

それが20年ほど続き、流石にしんどくなってきました。もう止めようと思うこともしばしばだったのですけど、楽しみに待っていてくれるファンも大勢居るので簡単に止めるわけにもゆきません。既に世の中は、デジカメやパソコンを使った美しい印刷物が手軽に作れる時代となっていたのですけれど、プリントゴッコのようなシルクスクリーン印刷による手造りの味わいや、インキの盛り上がりが出せないので敬遠してきたのです。

去年から着色部分だけは色鉛筆で塗り潰したものをプリンターで1度に10色くらい刷ってしまい、最後の墨版だけはインキを盛り上げてイラストのイメージを残すため、やっぱりプリントゴッコで印刷することにしています。そうすることによって、なんとかシルクスクリーン印刷の雰囲気とイラスト画のタッチ感だけは残せたと自負しております。

*その6ヵ月後、プリントゴッコの販売中止が発表されたのは偶然とは言えあまりにもタイミングが良すぎました。黒インキに、マスターとランプさえ確保しておけば、まだまだ続けられそうと胸を撫で下ろしております。