花火撮影の現場から

花火は、まさにフイルム向きの被写体

私が花火を撮り始めた1968年頃(40年前)、花火とは“お花見”の類で、写すのは余程の物好きな人間くらいのものでした。その後の40年の間に、カメラや感光材料は飛翔的な進歩を遂げ、それまでは初心者向けの低級機でしかなかった「全自動AF/AE機構」が高級一眼レフカメラにまで組み込まれるようになり写真界も絶頂期をむかえました。しかしそれも束の間、デジタル技術の台頭はフイルム式カメラを席巻し、今ではデジカメで花火を撮っている人が殆んどです。正確に云えば、本格的デジカメよりもカメラ付きケータイでお気軽に楽しんで写している人の方が数字の上では圧倒的に多いと思われます。

このような世情の中にあって、今日も花火を写しているプロ、アマチュア写真家の間では、フイルム式カメラが根強く支持され続けてきました。確かに、デジタルカメラで写した花火にも、デジタル画像ならではの味わいを感じます。私の友人にも、デジカメで花火を撮らせたら“ピカイチ”という人物が三重県に居ます。その人が写した作品を拝見すると、デジタルでしか出せない色調も確かにありました。あの小さなCMOSセンサーの中に、中判カメラを凌駕する高画質が隠されていようとは想像もつかないことでした。

だが、私はそれでもフイルム式カメラに固執し続ける“フイルム中毒患者”なのです。なぜならば、フイルムでしか表せない微妙な色調・滑らかな階調再現・立体感・雰囲気描写・・・と、私の心の内面にある美的感覚を刺激して忠実に記録し、また再現してくれる媒体はフイルムをおいて他にないからです。

すべての物事には適否があるように、デジタル向きの被写体とフイルム向きの被写体とが存在し、花火とはまさにフイルム向きの被写体だと言えます。幾層にも交錯した花火の光跡が綾なす美しさを忠実に捉えてくれる最良の記録媒体だと私は思います。もしも、デジタルが万能であるならば、とっくにフイルムもフイルム式カメラの生産も打ち切られているはずですが、未だに両者が健在なのは得意・不得意の分野があるからにほかなりません。

花火撮影を成功させる基本

元来、カメラというモノは写真を撮るための道具で、正しく扱えさすれば写って当然・・・写らないシロモノならばン十万円もの大金を出して買うはずもありません。それなのに上手く花火が写らないというのでしたら、先ずは撮影の基本―正しい三脚の使い方―から見直して欲しいと思います。

花火撮影の現場を覗いてみますと、失礼ながら三脚の扱い方からして失格と云う自称セミプロの人も結構多いようで、プロ用の高価なカメラを持っていながら三脚の扱いとなるとビギナー並の人もゴマンと見受けられます。足場の悪いフワフワとした草むらの上に三脚を立てるなど論外で、地盤が軟弱な場所では少しでも地面を掘り下げて硬い土に固定するくらいの心掛けも必要となりましょう。

花火撮影が静止した風景撮影と大きく異なる点は、風景撮影ならばポイントは1ヶ所で済むので数枚も写せば事足りますが、花火撮影では終始同じ場所から写すのが基本となります。それも、打ち上げられる度にポイントが目まぐるしく変動するので、最初からどの方向から打ち上がろうとも臨機応変に対処できるだけの確固たるポジションが求められ、上下左右と雲台を動かしてもブレない安定した堅固な地盤への設置が要求されてくるのです。この場所の見極めに失敗すると、まず その花火大会では良い作品は得られないものとお考えになられた方がよいでしょう。

河川敷の土手の斜面に前のめりの状態で三脚を立て、雲台の調整だけで水平を出して良しとすることからが問題です。この状態では不安定であるばかりか、ファインダーの端から打ち上げられた花火に対して、中央寄りに持ってこようとパンしただけでも水平バランスを崩してしまいます。尺玉のような頭上高く上がる花火もあれば、ワイドスターマインのように横位置で写したい花火もあるので、雲台の操作は素早く確実に水平を保てるように明るいうちからセットしておくのが基本です。

この時、センターポールが正しく垂直にセットされていないと、暗い中で構図を変える度に水平線の位置を直さなければならない羽目となり、せっかくのチャンスをどんどん逃がしてしまいます。三脚の脚が伸縮自在なのは、どのような地形であっても安定して設置できるというだけでなく、常に垂直が出せるようにするためでもあって、高さの調整は二の次と考えた方が適切です。

私は“縦用の水準器”を携行してセンターポールの垂直を出すことから撮影準備に取り掛かります。センターポールの垂直を確認してから雲台の水平を出せば、左右にパンさせても水平線の位置は常に一定に保たれ、多重露光にしても違和感のない綺麗な花火撮影が可能となるのです。適当な当て推量での水平は、地平線の灯りを不規則な重なりとして重複させ、甚だしき場合は花火の打ち上げ方向まで不自然にして心理的な違和感まで与えてしまいます。因みに私が愛用している三脚は、重量8kgもあります。これらの準備が普遍的にできるようになって、初めて花火撮影の第一歩を踏み出せたと言えましょう。

ここから、いよいよ三脚にカメラを載せて撮影となるわけですが、この後のことは、そのカメラの持ち主が一番詳しいはずですから割合させて頂きます。もし分からない点でもありましたら、明るい内に会場の現場に来られてお気軽に声を掛けてください。花火打ち上げ30分前になりますと、既に薄暮時の情景を写し始めて第一露光を開始し、全神経を集中させているのでご挨拶する暇もありません。

*縦用水準器はホームセンターなどで売られています。