花火撮影について

花火と風景の融合

花火・・・この“光の芸術”とも言える美しいシーンを写すには、先ず撮影場所の選定次第で作品の出来栄えが決まるといっても言い過ぎではないでしょう。打ち上げ地点が良く見渡せる視界を遮るもののない展望のよい場所 ― 土手の上・湖畔や河川敷・高台 ― などには、オリンピックの人気種目さながらに多くのカメラマンが早い時間から三脚を立てて場所取しているのが目にとまります。さらに、前景に湖水や川など水面に映る花火まで生かせるポイントですと、この傾向はいっそう顕著なものとなりましょう。

しかし、このような空間は陽が沈んで夜になってみると、真っ暗で予想したような水面の輝きが得られなかったり、周囲が暗過ぎて地上と空の境目も判然としない・・・写っているのは花火の光だけ・・・という情緒も雰囲気も無い写真になることが往々にして生ずるものです。せっかく遠方まで手間隙をかけて写しに行くのであれば、その土地ならではの情景や特徴ある街並みまで捉えてこそ花火撮影の醍醐味と言わねばなりません。

商業写真用に花火を写し続けて40年の歳月が流れ、いち早く『花火と風景の融合』に着目してまいりました。花火の写真といえども地勢や花火大会独特の雰囲気を大切に生かし、花火撮影では敬遠されがちな煙や帯の部分まで“花火には付きものの添景”として積極的に作画に生かすのが私の撮影手法であり持論です。

もう一つ、薄暮時の青黒い空に花火を浮かび上らせる撮影法もよく取り入れており、花火も周りの情景も同時に大変美しく、かつ肉眼で観た印象に近く捉えることができます。そこには、遠い昔に観た花火の記憶・・・二階の窓から隣の家の屋根越しに観た花火であったり、家と家に挟まれた狭い路地から眺めた花火だったりした幼児体験が大きく作用しているのかも知れません。故郷の山河を思い起こす郷愁をよぶ花火こそが、今後の私に果たされた撮影テーマとなりました。

臨場感あふれ、情緒ある作品づくり

有名花火大会で最新の花火しか写さないという人も居れば、私のように地方の小さな村祭の花火にまで目を向けて情緒や風情を大切に写すなど、花火の写し方・捉え方には百人百様の楽しみがありますので個性豊かに独自の視点で写したいものです。

写真で見る花火では、全貌を一挙にドーンと見せてしまうと尺玉でさえも小さく纏まって感じられ、スケール感も迫力も乏しい作品となるものです。そこで、故意に花火の一部を葉陰や建物の蔭で遮って写したり、屋根や橋の上の人物などのシルエットを取り入れて花火との大きさの対比で見せたり、更にはそこに生きる人々の生活感まで出した方が臨場感あふれる作品に仕上げられる・・・と、長年の花火撮影経験から学んできました。

花火だけを造形的に捉えるのも一つの方法論ではありますが、せっかく自分の目や心に感じたままを写すのであれば“花火カタログ”みたいな作品にはしたくないのが人情です。ですから私は明るいうちに場所探しを始め、カメラマンが大勢集まるような場所は敬遠して誰も来ない場所を探します。そこは建物の陰や大樹の葉陰だったり、墓地だったり(勿論、お寺さんの許可を取ります)橋の下、水辺の葦の葉陰、路地裏、車の上・・・と、その風土を最もよく表している観光地的ではない庶民レベルの場所を探し求め、そこにある建造物や街路樹などを添景として作画することを心掛けてきました。

また花火を写すには、暗い場所から漆黒の空でなければ良い写真にはならないと思っている方々も多いようですが、私は街路灯や窓明かりなどの発光物体も積極的に取り入れて生活感を出すようにしております。ボ~ッと、大気中に霞む街路灯などの点光源や、往き来する車のテールランプ類もバルブ露光で流して写し込むと風情を醸し出して良いものです。

まだ空に明るさが残る時間帯の、青黒い空に上る打ち上げ開始直後の花火も好んで写すようにしております。それは真っ黒な夜空に上がる花火とはまた違って、夕景の中にダイアモンドを散りばめたような街灯りが地上を支配し、その上空には静止した物体のように浮かび上がった花火が彩りを添えて・・・郷愁の念が漂う情緒あふれる作品となることでしょう。